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最高裁判所第二小法廷 平成3年(オ)1476号 判決 1993年10月22日

上告人

株式会社佐藤忠七商店

右代表者代表取締役

佐藤圭藏

右訴訟代理人弁護士

中場嘉久二

被上告人

島田四郎

西中洋志

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中場嘉久二の上告理由一について

約束手形の所持人が振出人に対し満期前に将来の給付の訴えとして約束手形金請求訴訟を提起したが、口頭弁論終結前に満期が到来した場合には、裏書人に対する遡求権行使の要件として、支払呈示期間内に支払場所において振出人に対する支払呈示をしなければならないというべきであり(手形法四三条、七七条一項四号)、振出人に対する右訴訟の提起ないし訴状の送達は、裏書人に対する遡求権行使の要件である支払呈示としての効力を有しないものと解するのが相当である。けだし、支払呈示が裏書人に対する遡求権行使の要件とされているのは、最終的な支払義務者である振出人に対し支払呈示期間内に支払場所において支払呈示をすることにより、請求者が約束手形の正当な所持人であることを確知させると同時に、振出人によって支払がされるのか否かを明らかにさせる必要があるためであるところ、右の必要性は、振出人に対し将来の給付の訴えである約束手形金請求訴訟が提起され、その口頭弁論終結前に満期が到来した場合であっても異なるところはないからである。これと同旨の見解に基づき、上告人の被上告人らに対する本訴請求は遡求権行使の要件に欠けるから理由がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同二について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官大西勝也)

上告代理人中場嘉久二の上告理由

一、原判決には法令違背ないし理由不備の違法がある。

(一) 上告人の原審における主張

上告人は一審において壱通の訴状をもって将来の給付の訴として、主債務者たる振出人((株)独活腕建築事務所)と裏書人(遡求義務者)である島田四郎及び西中洋志(被上告人)ら三名に対し同時に主債務者振出人及び遡求義務者全員の合同責任を訴求したところ「裏書人に対する関係では、呈示期間内における手形の現実の呈示が実体上の遡求義務発生の要件であるため、右現実の呈示がない以上、裏書人は遡求義務を負うものではない。したがって本件においては、支払場所において呈示期間内に本件手形の現実の呈示がなされていないことは争いがない」ことを理由に振出人に対する請求は認容したが右裏書人(遡求義務者)たる被告ら(被上告人ら)に対する原告(上告人)の請求を棄却した。そこで上告人は後記の(1)ないし(3)の通説及び判例理論によって控訴し、「満期前に振出人及び裏書人(被上告人ら)を相手に将来の給付の訴を提起している以上支払場所に現実に呈示する必要はない」旨主張したが、原審は「なるほど約束手形についても、振出人が破産に陥り、支払を停止し、又はその財産に対する強制執行が効を奏しなかった等の場合(手形法四三条二号参照)には、満期前の遡求も許されると解すべきことは控訴人主張のとおりであるが、その場合であっても、振出人の破産の場合(同法四四条六項)を除いては、事実の確認が難しいので、支払の呈示をなし、拒絶証書の作成をしてからではないと遡求することができないことは裁判上の請求をもって遡求する場合でも例外ではないものと解される」と判示して上告人の控訴を棄却した。

1、「手形の現所持人は以上の義務者(裏書人のほか振出人を含む)中何人に対してでも直接請求することができる(必ず直接の前者に遡求しなければならぬことはなく離れた前者に対し跳躍的遡求もできる)。しかも、同時に数人に対して請求してもよいしまた、一たん甲に請求した後に、相手方を変えて(変更権)乙に対して請求してよい(手七七条一項四号、四七条二項四項)。このように所持人は自由に相手方を選んで請求できる」(鈴木竹雄「手形法小切手法」二三九頁)

2、「手形法は約束手形については支払拒絶による遡求のみを認め(手七七条一項四号)満期前の遡求を考えていないが、満期前にも振出人の信用が失墜して満期における支払いの可能性があやしくなった場合には、遡求を認めないと、為替手形との調和が破れ(手四三条対照)不当である。従って、満期前の遡求も右の場合には認められると解しなければならない(田中耕・五六五頁、伊沢・五三五頁、竹田・二二〇頁)」(前掲書二九四頁)

3、周知のように裁判上の請求をなす場合には手形の現実呈示を要しないというのが古くからの一貫した判例理論である(大隅健一郎外一名「注釈手形法、小切手法」二八〇頁〜二九一頁)

(二) しかして原審の右判示が最高裁昭57.11.25一小法廷判決(以下「本件最高裁判決」という)の「約束手形の振出人が銀行取引停止処分を受け支払を停止した場合、手形所持人が手形法四三条後段二号の準用により裏書人に対し満期前の遡求をするために必要な振出人に対する支払呈示は、振出人の営業所又は住所においてすべきである」判旨をそのまま鵜呑みこみしてなされたものであることは明瞭である(もっとも一審(したがって原審も)が「支払場所における呈示」と言っているのは解釈上のミスである)

(三) しかしながら、

(1) 本件最高裁判決は主債務者(約束手形の振出人以下同じ)と裏書人を共同被告人として裁判上の請求(将来の給付の訴)をしている事件を対象としたものでないから本件最高裁判決の法理をその儘本件に適用した判断をすることは適切でない。

(2) 次に原審(一審も同様)は主債務者(振出人)に対しては満期以前に将来の給付の訴を提起しておれば満期が到来しても改めて支払呈示をしなくてもよい(前記(一)の後記3の判例理論)と判示しながら裏書人に対する遡求の関係では既に裏書人に対し将来の給付の訴を提起しているのに、もう一度支払場所(これは解釈のミスで主債務者(振出人)の営業所又は住所)に呈示しなければならないことはいかにも不合理である。畔上英治判事がこの点について「経済社会の実際においてもいささか無理を強いる感がある。多くの裏書を経て取得した手形所持人が支払人の営業所または住所を尋ね当て支払いの見込もないのに改めて呈示し、しかもその証明手段を講じておくことは実情として困難であるからである(とくにそれが遠隔の地である場合)」と嘆(なげ)かれている(判例タイムズNo.一九八の四六頁)

(3) そうすると、主債務者(振出人)に対しては適法な将来の給付の訴が提出されている以上、満期後改めて支払呈示をしなくても前記(一)の後記(3)の判例理論によって適法な支払呈示があったものとされる(一審、原審共にこれを認めている)から右将来の給付の訴において右主債務者(振出人)と共同して訴えられた裏書人に対しても主債務者(振出人)に対する適法な支払呈示のなされたものと解するのがむしろ自然な解釈というべきである。

二、<省略>

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